2つの迷走神経(ポリベーガル理論)


 私達の社会的ふるまいや気分障害は、生物学的であり、つまりは、それらは通常私達が考えるよりも私達の内部にハードウェアにより実現されている。



自律神経システムの働きは「生命を存続させるため」数百年以上かけて進化してきたもので、三つの神経機能によって階層的に組織化され、人が外界に対してどのように反応するかに影響する。

 

通常は一番新しいシステムで反応し、それが働かなければ、もう一つ古いシステム、それがだめなら一番古いシステムとなる。

 

より新しい回路は古いものを抑える。自分自身の気持ちを落ち着かせ、その状態を促進するため最も新しい回路を使う。それが働かなかいとき、私達は闘争-逃避行動を起こすよう交感神経的副腎のシステムを使う。そしてそれが働かなかったら、私達は凍りつく又は閉じるシステムであるとても古い迷走神経システムを使う。

 

新しい段階のシステムから適用され、それが有効でない場合一つ前の段階で反応する。最新のシステムで始め、そして逆戻りしていく。

 

また各段階に居続けることで、その段階のシステムによる反応が強化される。

 

私達の社会的ふるまいや気分障害は、生物学的であり、つまりは、それらは通常私達が考えるよりも私達の内部にハードウェアにより実現されている。

 

◎2種類の迷走神経-ポリベーガル理論(多重迷走神経説)

 

自律神経のはたらきは身体の調整・バランスであるとする理論が現在通説となっているが、イリノイ大学のスティーブン・ボージェスは、敵から防衛したり社会的な絆を築いたりといった他個体との関係性に適応するために進化したのだとする。

 

動物にとっての社会的な関係を、副交感神経的はたらきをする2種類の迷走神経と、交感神経による3段階の理論によって説明する。

 

迷走神経は構造的な分類であり、脳幹と接続し主に胸腹部の内臓を支配する副交感神経をさす。

 

▽進化の段階と自律神経

 

・第一段階

進化的に最も古い神経系。迷走神経(背側複合体)に制御された極度に副交感神経的な状態(感覚の不在、感情の麻痺、身体動作の減少)

 

逃走できない危機的な状況におちいると、動物は心臓、呼吸、筋肉などすべての身体のはたらきを低下させ、身体は「不動」の状態となる。

 

蛇に睨まれたカエルは仰向けにひっくり返って動かなくなる。人間でもあまりのショックに足がすくんで身動きがとれなくなる。心のはたらきとしては感情が麻痺してしまったり、頭が真っ白になって何も考えられなくなったり、身体活動が減退した状態であり、活動性がなくなる。

 

この低覚醒な状態が続くと抑うつや悲嘆、無気力になり副交感神経優位の疲れを感じるようになる。すなわち少し動くだけでも疲れる、やる気がおこらない、小さなことが気になる、落ち込みやすい、朝起きのがおっくうになる、といった問題を抱えることが多い。

 

・第二段階

交感神経の優位な過覚醒の状態(感覚の増大、情動的反応、過剰な警戒態勢)

 

「闘争か逃走か」反応ともいわれ、心拍や呼吸が増加し、筋肉は硬くなる。「窮鼠、猫を噛む」というように敵に挑んで逆に攻撃をしかけたり、全力で逃げ延びようとするはたらき。

 

身体は戦闘状態にあるため、それが続くと疲弊してしまう。心理的には不安が高い。いつも身体が疲れている。イライラする、興奮して夜眠れない。血圧が高い、血糖値が高いといった過覚醒な状態で交感神経が優位な疲れを感じることになる。

 

・第三段階

バランスの取れた最適で心地よい覚醒状態(母子関係、家族関係の中で培われ、個々人が築き上げていく人間関係、社会なあり方の基礎になり、落ち着きや社会的態度を促進させる)

 

迷走神経(腹側複合体)に支配され副交感神経優位な状態であるが、交感神経も適度に覚醒したバランスの取れた状態。進化的には最も新しく備わった機能。表情、声の抑揚、身振り等を使いながら、外の環境に対して冷静、柔軟に対応できる。リラックスしているが完全に弛緩してだらけた状態ではない、最適な心地よい覚醒状態。

 

(山口創「手の治癒力」草思社刊より抜粋・引用し一部補足した)